キッキに――

「水が落ちてるね」と、僕越しに見えている風景に紛れこんでいるキッキは沼を指さして言った。「大きめの水が深めに」
「ダイエットウォーターだ」と、僕は答えた。「微生物たちの液体住居」
「水はすでに0キロカロリーだとばかり思っていたけど」
「この水を飲むと腹を壊すんだ」言い伝えを口にした。「げっそりとなることができるよ」
「げっそれるのか」
「ああ、ちょーげっそるな」あらゆる言動は世界に対する深刻な幻滅不足に由来している。
「ちょげそり」
僕たちは最悪の限りを尽くした言葉をお互いに掛け合う遊びに興じた。
キッキは、ヒョウ柄のワンショルダーのタンクトップに、ローライズの腰巻きを穿いている。
ツタ製のベルトを、腰に二重巻きにし、余りを長めに横に垂らしている。
また、大量の花びらが巧みに髪の毛の内部に隠されていて、薪になる小枝を拾う際などに、何枚かヒラヒラと舞い落ちる仕掛けになっている。
優美な仕掛けだと思うが、彼女のそのように優雅な作業姿に見とれて、投げキッスを股間で受け止めたような顔でうっとりとして作業の手をとめていたりすると、怒られることになる。
シカの角に洗濯物を乾したり、庭にしている地球の草を刈ったりながら、二人で話をしていた。
乾季のシマウマと雨季のシマウマではどちらが美味しいか、という話をし、それよりも、タイ風グリーンカレーが食べたい、という結論に達した。
神経症的で少々凶暴になりがちなお喋りリスと、伏し目がちで人懐っこい内気なライオンのどちらが怖いかという話をして、それよりも、知恵遅れと鋭敏な知性とを行ったり来たりするキツネと友達になりたい、という結論に達した。
駄菓子屋で10万円使えるのと、池袋で1万円使えるのどっちがいいかという話をして、それよりも1億円欲しい、という結論に達した。
どれもこれも、柔軟かつ妥当な結論だと思った。
僕たちは、互いの10センチの距離を縮めるのに、1万歩を費やしがちだったが、結論に至るのにはわずか1語で済ませるのだ。