よつばと!

「あさぎさん、こんにちわ」挨拶をする。挨拶をする人は人に好印象を与えるということを知っているということを示した。「うさぎさん、こんにちわ」
「うさぎさんは、いないよ」と、あさぎさんが教えてくれた。「あさぎさん、だけで十分だよ」
「あなたは今、ぼくのきもちを、うっかり代弁してくれました」感謝の気持ちが生まれた。「あなただけで、十分です」
あさぎさんは、にっこりと笑った。心は笑っていない。
「これ」と言って、ぼくはフォスフォレッセンスの花束を渡そうとする。「ぼくの愛を受け入れてください」
「フォスフォレッセンス」と、あさぎさんが花の名前を言い当てる。「太宰治の小説に出てくる花ね」
花言葉は『あさぎさんとけっこんしてあさからばんまでやりまくりたい』です」と、ぼくは教えてあげた。
あさぎさんが花束を隣の庭に放り投げた。
庭で遊んでいたよつばはそれを嗅ぎつけたように走って行き、拾った。「あった!」宝物を見つけたように、よつばは喜びの声を上げた。そして、よつばはさらに隣の家の庭に放り投げた。庭から庭へ花束を放り投げては拾いに行く遊びを開発したのだ。5,6件目には飽きて、別の遊びを開発することだろう。
「あなたとけっこんしてあさからばんまでやりまくりたくないの」と、あさぎさんがゆっくりと言葉を口にした。
「あさとばんだけでも結構なんです」ぼくは譲歩した。「なんなら、ばんだけでも」
あさぎさんが首をふる。髪の毛に付着した花びらを振り落とすみたいに。「あなたは病気なのよ」
「ぼくは病気」ぼくはそれを知っていた。「ぼくは気が狂っている」ぼくはそれも知っていた。
「墓石におやすみのキスをして、蛆虫たちと仲良く寝ることね」
死のうと思った。あさぎさんの膣にいつでも入れると思ったからこそ、これまで生きてこれたのだ。
殺そうと思った。入れない膣に用はない。破壊だ。