川田絢音、その16

「眼の/血の波音の/指先にみちる火の/脚の/眼の隈の/右の乳房の/言葉を」(川田絢音「空の時間16」)


改行ごとに意味を区切る読み方と、すべての行をつなげて意味をとる読み方とあるが、後者が正しいと思う。
詩人の主要な役割の一つは、未知の言葉の翻訳であるのだが、ここでは「鳥の言葉」や「木の言葉」ではなくて、
「眼の言葉」や、「右の乳房の言葉」を詩に翻訳したいという詩人の欲求を語っている。
言葉を捜し求める行為を、ひたすら自分の身体上で行っているわけだが、「眼の言葉」を翻訳しようとすると、同時に「血の波音の言葉」を翻訳しなければならなくなり、「血の波音の言葉」を翻訳しようとすると、同時に「指先にみちる火の言葉」を翻訳しなければならない、と無限に参照行為が続いてしまうことを表現しているのである。
ちょうど、辞書を参照し始めると、意味を知りたい言葉の意味を説明する言葉の意味を永遠に参照し続けるはめになりかねないように。
「指先にみちる火」に関して、僕の大好きなサイトである「caerula」の2000年12月2日付の日記に正確な表現があるので、無断で引用する。
「コップのへりに指を一本だけ乗せるとそこから血が上がってくる。のぼせる。感覚があるのがわかる。」